WBA世界スーパー・ライト級王座決定戦 イスマエル・バロッソ対ローランド・ロメロ

  • 2023/06/09

KO率76%の40歳 vs KO率80%の27歳
新旧元暫定王者同士が激突

 当初、ローランド・ロメロ(27=アメリカ)はアルベルト・プエジョ(28=ドミニカ共和国)の持つWBA世界スーパー・ライト級王座に挑むことになっていたが、プエジョが抜き打ちのドーピング検査で陽性だったためWBAから「待った」がかかった。それを受けプエジョの代わりに1位のイスマエル・バロッソ(40=ベネズエラ)が出場し、5位のロメロとの間で王座決定戦を行うことになった。WBAはプエジョを暫定的に「休養王者」にスライドさせることで事態の収拾を図っている。

左ストレートの強打に頼るバロッソ

 相手が変更になったとはいえバロッソはプエジョと同じサウスポーで体格も大差はないため、ロメロが大きな戸惑いを感じることはないものと思われる。むしろ陣営は21戦全勝(10KO)と勢いのあるプエジョよりもバロッソの方が与し易いと判断しているのではないだろうか。
 バロッソは29戦24勝(22KO)3敗2分とKO率(約76パーセント)の高さは目立つものの、単に数字だけの比較ならばロメロの方がKO率(80パーセント)は高い。それ以上に40歳という年齢が引っかかる。加えて3敗のうち2敗はKOによるもので、バロッソは打たれ脆いところがある。2015年12月にアウェーのイギリスでWBA暫定世界王座を獲得したものの、5ヵ月後に組まれた正王者のアンソニー・クロラ(イギリス)との団体内統一戦では7回KO負けを喫している。前半で大量リードを奪ったものの6回に反撃を受けて失速。最後はボディブローで10カウントを聞かされるという内容だった。2018年8月にもバティルザン・アフメドフ(ウズベキスタン/ウクライナ)に9回KOで敗れている。
 底をみせてしまった印象のバロッソだが、パンチ力に関しては特別なものがある。背を丸めた左構えからプレッシャーをかけ、踏み込んで打つ左ストレート、左フックは相手を失神させるのに十分な破壊力を持っているのだ。この左は相手にとってはタイミングと軌道が読みにくく、バロッソの最大の武器となっている。

階級アップの再起戦=王座決定戦のロメロ

 ロメロも元暫定王者で、こちらは2020年8月から1年間、ベルトを保持していた。WBAの方針転換によって暫定王座が消滅したため2021年8月に無冠になった経緯がある。そもそも当時はスーパー王者としてジョージ・カンボソス(オーストラリア)がいて、さらに正王座にジャーボンテイ・デービス(アメリカ)が君臨していたため暫定王者の影は極めて薄かったことは否めない。
 それでもロメロそのものの素質が高く評価されていたことも事実だ。スタンスを広めにとり体重を右足に乗せた構えで出入りしながら振りの大きな左右フックや右ストレートなどを打ち込む。それが急所に当たった場合は派手なダウンシーンが生まれる。ボクシングそのものは雑だが、意外性を含んだパンチ力は魅力だ。
 2020年8月にWBA暫定世界ライト級王座を獲得。11ヵ月後には体重超過の相手を7回TKOで沈めて初防衛を果たしたが、統括団体の方針変更によって無冠に戻ったのは前記のとおりだ。そして昨年5月、デービスに挑んだが、6回にカウンターの左を浴びてダウン、立ったもののレフェリーにストップされた。それを機に階級を上げ、いきなり世界戦のチャンスが巡ってきたのだから運に恵まれているといえる。戦績は15戦14勝(12KO)1敗。

オッズは8対1でロメロ有利だが…

 攻撃型サウスポーのバロッソが前に出ながら左ストレートを放ち、ロメロが左右に動きながら迎え撃つ展開が予想される。ともに不規則なタイミングと軌道で打ち出すパンチが多いため、突然、一発でけりがつく可能性もある。特にロメロはバロッソの左ストレートには十分に注意しなければなるまい。オッズは8対1の大差でロメロ有利と出ているが、そこまでの実力差はない。

<スーパー・ライト級トップ戦線の現状>

WBA S
:空位 イスマエル・バロッソ対ローランド・ロメロで決定戦
休養
:アルベルト・プエジョ(ドミニカ共和国)
WBC
:レジス・プログレイス(アメリカ)
IBF
:スブリエル・マティアス(プエルトリコ)
WBO
:ジョシュ・テイラー(イギリス)

 4団体の王座を統一したジョシュ・テイラー(32=イギリス)が1年前に3本のベルトを手放したため、再び混乱状態に陥っている。かつてテイラーに惜敗したレジス・プログレイス(34=アメリカ)がWBCで王座に返り咲き、ダニエリート・ソリラ(29=プエルトリコ)を相手に初防衛戦を予定している。IBF王座はパンチ力が自慢のスブリエル・マティアス(31=プエルトリコ)が獲得。
 しかし、WBA王座を継承したアルベルト・プエジョ(28=ドミニカ共和国)はドーピング違反のため戦線離脱してしまった。プエジョに挑戦するはずだったローランド・ロメロ(27=アメリカ)は元暫定王者のイスマエル・バロッソ(40=ベネズエラ)との決定戦にまわった。
 WBO王座はテイラーが保持しているが、元世界ライト級王者のテオフィモ・ロペス(25=アメリカ)の挑戦を受けることになっており、結果が気になるところだ。
 このクラスが混迷の色合いを深めている理由のひとつとして、王者と同等の力量を持っている選手がランキング上位に何人かいる点が挙げられる。元2団体王者のホセ・ラミレス(30=アメリカ)、16戦全KO勝ちのゲイリー・アントゥアン・ラッセル(26=アメリカ)、28戦全勝(10KO)のアーノルド・バルボサ(31=アメリカ)らである。特にパンチ力が魅力のサウスポー、ラッセルは王者たちにとって脅威なのではないだろうか。
 2番手グループには22戦全勝(17KO)の平岡アンディ(26=大橋)、28戦全勝(23KO)のブランダン・リー(24=アメリカ)らが控えている。




ウェルター級10回戦 ランセス・バルテレミー対オマール・フアレス

元世界2階級制覇王者の再起戦
番狂わせ狙う23歳のフアレス

 スーパー・フェザー級とライト級で世界王座を獲得した実績を持つランセス・バルテレミー(36=キューバ)が、再起戦でオマール・フアレス(23=アメリカ)と対戦する。バルテレミーは昨年7月、売り出し中のゲイリー・アントゥアン・ラッセル(アメリカ)に6回TKOで敗れており、年齢的にも連敗は避けたいところだ。
 バルテレミーはアマチュアを経て2009年8月にプロ転向を果たし、5年後にIBF世界スーパー・フェザー級王座を獲得。2015年12月にはライト級のIBF王座も手に入れた。その3年後には3階級制覇を狙ってWBA王座決定戦に出場したが、判定で敗れた。これがプロ28戦目での初黒星だった。2019年4月には再びライト級に戻りWBA王座決定戦に出場したが、12回引き分けに終わっている。178センチの長身と184センチのリーチを生かしたパンチャー型で、「Kid blast(爆風、旋風)」というニックネームがある。ラッセル戦では右フックを浴びてダウン。立ち上がったところで止められたが、それまでは何度かラッセルを慌てさせる場面もあった。戦績は34戦30勝(15KO)2敗1分1無効試合。
 フアレスは2018年9月にデビューした23歳のホープで、5年間に15戦14勝(5KO)1敗の戦績を残している。唯一の敗北は2021年6月、オール・リベラ(フィリピン)に10回判定負けを喫したもので、その後は3連勝を収めている。ちなみにバルテレミーはリベラに10回判定勝ちを収めている(2021年1月)。「El Relampago(稲妻)というニックネームを持つフアレスだが、戦績が示すとおりパンチ力には欠ける。それを自覚してのことか自ら下がって相手を誘い込んで迎え撃つ戦いが多い。
 体格とパンチ力、経験で勝るバルテレミー有利は動かない。オッズも7対4で元世界2階級制覇王者有利と出ている。バルテレミーは相手の出方によって左右どちらの構えで戦えるのも強みといえる。ただ、嚙み合わせが甘くなると集中力が散漫になる傾向があるため、フアレスは的を絞らせずに辛抱強く戦って相手の隙を突きたいところだ。

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