WBO世界ミドル級タイトルマッチ ジャニベク・アリムハヌリ対スティーブン・バトラー

  • 2023/06/02

サウスポー王者のV2戦が濃厚
挑戦者は右ストレートに活路

 昨年5月にWBO暫定世界ミドル級王座を獲得し、その後、正王者に昇格したジャニベク・アリムハヌリ(30=カザフスタン)が、来日して村田諒太(帝拳)の持つ世界王座に挑んだ経験もあるスティーブン・バトラー(27=カナダ)を相手に2度目の防衛戦に臨む。13戦全勝(8KO)の王者に対しバトラーは36戦32勝(26KO)3敗1分とKO率では上回っている。それでも圧倒的にアリムハヌリ有利のこの試合、KO決着が濃厚だ。

「カザフ・スタイル」のアリムハヌリ

 カザフスタン生まれのアリムハヌリは2016年リオデジャネイロ五輪ミドル級ベスト8のほか、世界選手権では2013年大会で優勝、2015年大会ベスト8の実績を持っている。
 2016年10月に自国でプロデビューして2戦したが、当時はスーパー・ミドル級を上回る77キロ~78キロの体重だった。2018年5月にアメリカに拠点を移し、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)対セルゲイ・コバレフ(ロシア)Ⅱ、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)対アンソニー・クロラ(イギリス)などトップランク社主催のイベントの前座で勝利を重ねた。地域王座を獲得後、2021年6月には元世界王者のロブ・ブラント(アメリカ)を8回終了で棄権に追いやり、11月には同じく元世界王者のアッサン・エンダム(カメルーン/フランス)を8回TKOで一蹴。昨年5月にはダニー・ディグナム(イギリス)を2回KOで粉砕してWBO暫定世界ミドル級王座を獲得し、デメトリアス・アンドラーデ(アメリカ)の転級によって正王者に昇格した。初防衛戦ではデンゼル・ベントレー(イギリス)の抵抗に遭って判定勝ちに留まったが、ベルトは堅守した。
 KO率は約62パーセントと驚くほど高いわけではないが、パンチの破壊力は十分にある。特に左は強い。上体を揺らしながらプレッシャーをかけ、インサイドから打ち抜くものと外から巻き込むように放つもの、さらに近距離で相手の死角から突き上げるアッパーと多彩だ。アリムハヌリは「踏み込んで打つこともできるし、下がって対応することもできる」と自分の戦い方を説明し、自ら「カザフ・スタイル」と称している。

72パーセントのKO率を誇るバトラー

 アリムハヌリのように国際舞台で活躍した実績はないが、挑戦者のバトラーも2013年カナダ選手権で優勝するなどアマチュアで55戦(50勝5敗)を経験している。プロ転向は2014年3月、18歳のときだった。こちらは初陣がスーパー・ウェルター級リミットを下回る約68キロで、2018年からミドル級に上げている。
 2019年4月には村田の持つWBA世界ミドル級王座に挑んだが、ボディを効かされたあと顔面に左右の強打を浴びてダウン、5回TKOで敗れた。その後、コロナ禍のなか再起戦が2度キャンセルになるなど活動が一時的に停滞。あげく2021年1月のメキシコ遠征でホセ・デ・ヘスス・マシアス(メキシコ)に5回TKOで敗れ、トップ戦線から大きく後退してしまった。連敗後、1年以上の休養を挟んで3回TKO勝ちで再起を果たし、次戦でNABF北米王座を獲得するなど2022年に4連勝を収めて世界15傑に戻ってきた。
 王者を上回る72パーセントのKO率が示すとおりの強打者で、村田戦ではワンツーから左フックをボディに返すシーンが多く見られた。正面から相手に向かい合うタイプといえる。

サウスポーとの対戦経験に乏しいバトラーを王者が圧倒か

 圧力をかけたり引いたりしながら機を見て破壊力のあるパンチを打ち込もうとするアリムハヌリに対し、バトラーは正面から右ストレートを狙うことになりそうだ。
 気になるのはバトラーがサウスポーとの対戦経験が乏しい点である。2017年以降の17戦だけをみても左構えの選手との対戦は1度だけしかない(2022年9月のマーク・デルーカ戦=2回TKO勝ち)。経験値として絶対的に少ないうえ、今回の相手が多彩なパンチを放つアリムハヌリであることを考えるとバトラーにとって極めて厳しい戦いになることは確実といえる。挑戦者が大番狂わせを起こすためには被弾覚悟で右ストレートを狙っていくしかないだろう。

<ミドル級トップ戦線の現状>

WBA
:エリスランディ・ララ(キューバ/アメリカ)
WBC
:ジャモール・チャーロ(アメリカ)
暫定
:カルロス・アダメス(ドミニカ共和国)
IBF
:空位
WBO
:ジャニベク・アリムハヌリ(カザフスタン)

 3年前と比べ、ミドル級トップ戦線の状況とメンバーに関してはやや寂しい印象が拭えない。2020年5月といえば新型コロナウィルスの蔓延で世界中の諸活動が停滞したときだが、そのときの王者は以下のとおりだ。

WBA S
:サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)
:村田諒太(帝拳)
暫定
:クリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)
WBC
:ジャモール・チャーロ(アメリカ)
IBF
:ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)
WBO
:デメトリアス・アンドラーデ(アメリカ)

 このほか王者たちを脅かす存在としてWBC1位にはセルゲイ・デレビヤンチェンコ(ウクライナ)、WBO1位にはハイメ・ムンギア(メキシコ)がランクされていた。直接対決を想像するだけで胸が高鳴るようなカードが数多くあったのだ。
 その後、アルバレスとアンドラーデはスーパー・ミドル級に転向し、ゴロフキンは村田との統一戦を経てWBA王座とIBF王座を返上。チャーロは2021年6月の試合を最後に休養状態に入ってしまった。
 現在のトップ戦線を見渡すと、2階級制覇を成し遂げたエリスランディ・ララ(40=キューバ/アメリカ)は8月に元世界2階級制覇王者のダニー・ガルシア(35=アメリカ)と対戦する予定だ。ララはいぶし銀の技巧派サウスポーだが、そのスタイルと年齢から多くを期待するのは酷といえよう。体重を大幅に増やすガルシアにも同じことがいえそうだ。
 こうしたなか、救いはWBC暫定王者のカルロス・アダメス(29=ドミニカ共和国)とWBO王者のジャニベク・アリムハヌリ(30=カザフスタン)、そして元WBO世界スーパー・ウェルター級王者のハイメ・ムンギア(26=メキシコ)が比較的若いという点であろう。とくにアリムハヌリ対ムンギアは見てみたいカードといえる。
 これに実績十分のゲンナジー・ゴロフキン(41=カザフスタン)、戦線復帰が待たれるWBC王者のジャモール・チャーロ(33=アメリカ)が絡んでくれば注目度は大きくアップするはずだ。




WBO世界バンタム級王座決定戦 ジェイソン・マロニー対ビンセント・アストロラビオ

双子の兄弟王者誕生なるか
オッズは5対4 マロニー有利だが…

 今年1月、井上尚弥(大橋)がスーパー・バンタム級に転向するために返上した4王座のうちのひとつ、WBO王座を1位のジェイソン・マロニー(32=オーストラリア)と2位のビンセント・アストロラビオ(26=フィリピン)が争う。正統派のマロニー、パワーが売りのアストロラビオ。序盤から激しい主導権争いになりそうだ。

3度目の挑戦にかけるマロニー

 マロニーはアマチュア時代から双子の弟・アンドリューとともに活動し、プロでは27戦(25勝19KO2敗)のうち20度も兄弟で同じイベントに出場してきた。すでに2019年にアンドリューはWBA世界スーパー・フライ級王者になっており、ジェイソンが戴冠を果たせば双子の兄弟世界王者が誕生することになる。
 これが3度目の世界挑戦となるマロニーにとっては内容よりも勝利が優先される試合といえる。2018年10月、マロニーはIBF世界バンタム級王座決定戦でエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と拳を交えたが、採点が2-1に割れる僅少差の判定で敗れた。2度目の大舞台は2020年10月のこと。再起4連続KO勝ちで臨んだ試合だったが、井上尚弥に7回KO負けを喫した。マロニーは総合的に高いレベルの選手であることは証明できたが、WBAとIBFのベルトをつかむことはできなかった。以後、世界ランカーのジョシュア・グリー(アメリカ)、世界挑戦経験者のアストン・パリクテ(フィリピン)らを下し、昨年10月にはWBC挑戦者決定戦でナワポーン・ソールンビサイ(タイ)に12回判定勝ちを収めている。

強豪連破の「アップセットマン」 アストロラビオ

 アストロラビオは2015年8月にプロデビューし、8年間で21戦18勝(13KO)3敗の戦績を残している。敗北は世界挑戦経験者のジョン・マーク・アポリナリオ(フィリピン)、のちにWBOアジアパシフィック王者になるストロング小林佑樹(六島)、何宗礼(ZongLi He=中国)に喫したものだが、2019年以降は6連勝(5KO)と別人のような活躍ぶりだ。特に直近の2戦では元世界2階級制覇王者のギジェルモ・リゴンドー(キューバ)からダウンを奪って10回判定勝ち、世界上位ランカーのニコライ・ポタポフ(ロシア)に6回KO勝ちと価値ある勝利を収めている。ニックネームは「ASERO(鋼鉄、勇敢)」だが、この2戦で知名度は急上昇し、「アップセットマン(番狂わせを起こす男)」とも呼ばれている。

15対8 ⇒ 13対8 ⇒ 11対8 ⇒ 5対4 接近するオッズ

 マロニーが身長165センチ/リーチ165センチ、アストロラビオが165センチ/166センチと体格に差はないが、戦闘スタイルは異なる。両ガードを高めに上げた構えから丹念に左ジャブを突いて距離とタイミングを計り、機を見て右ストレートに繋げる正統派のマロニーに対し、アストロラビオは左ガードを低めにしたフォームでプレッシャーをかけ、射程内に入るとワイルドな左右フック、右アッパーを強振してくる。
 勝負を占うカギは距離にあるといっていいだろう。マロニーはロングレンジをキープして戦いたいはずで、一方のアストロラビオは中近距離の打撃戦に引きずり込みたいところ。具体的な予想となると、マロニーは足をつかいながら慎重かつ正確な左を繰り出してアウトボクシングを狙うものと思われる。それはアストロラビオの想定の範囲内だろう。そのうえでどんな作戦を用意しているのか注目したい。オッズは経験とボクシングの幅で勝るマロニー有利で推移しているものの15対8、13対8、11対8、5対4と試合が近づくにつれて接近している。

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