WBO暫定世界ヘビー級タイトルマッチ ジョー・ジョイス対ツァン・チレイ

  • 2023/05/19

KO率93%の「重戦車」 vs サウスポーの「ビッグバン」
五輪銀メダリスト対決

 昨年9月、元世界王者のジョセフ・パーカー(ニュージーランド)に11回KO勝ちを収めてWBO暫定世界ヘビー級王者になったジョー・ジョイス(37=イギリス)が、同級13位のツァン・チレイ(張志磊 39=中国)を自国に迎えて初防衛戦に臨む。2016年リオデジャネイロ五輪スーパー・ヘビー級銀メダリストのジョイスに対し、ツァンも2008年北京五輪で同じ色のメダルを獲得している。37歳と39歳の銀メダリスト対決は、どちらに凱歌があがるのか。

ともにアマチュアで活躍後 30歳過ぎてプロ転向

 ともに輝かしいアマチュア実績を残しているが、世界を舞台にした活躍は2歳年長のツァンが少しだけ早い。世界選手権に2003年から2011年まで5大会連続で出場したツァンは、2007年と2009年には3位に食い込んでいる。自国開催の2008年北京五輪では銀メダルを獲得したが、2012年ロンドン五輪では2回戦でアンソニー・ジョシュア(イギリス)にポイント負けを喫した。
 ジョイスは2013年の世界選手権こそ初戦敗退だったが、2015年大会では3位に入った。集大成として臨んだ2016年リオデジャネイロ五輪では決勝でライバルのトニー・ヨカ(フランス)に惜敗して銀メダルに甘んじた。
 プロ転向はツァンが2014年8月で、ジョイスは2017年10月だった。ツァンが31歳、ジョイスが32歳、ともに遅い出帆となったが、出世はジョイスの方が早かった。

10回戦デビュー後 強豪を連破してきたジョイス

 ゴールデンボーイプロモーション(GBP)の元トップ、リチャード・シェーファー氏と元世界クルーザー級&ヘビー級王者、デビッド・ヘイと契約を結んでプロに転じたジョイスは10回戦デビューを果たし、4戦目には英連邦王座を獲得。その後も元世界王者のバーメイン・スティバーン(ハイチ/アメリカ)、世界挑戦経験者のアレクサンドル・ウスティノフ(ロシア)、ブライアント・ジェニングス(アメリカ)らを連破してランクを上げていった。2020年11月には日の出の勢いだったダニエル・デュボア(イギリス)とも対戦し、このホープを10回KOで破った。さらにカルロス・タカム(カメルーン/フランス)、クリスチャン・ハマー(ルーマニア/ドイツ)といった実力者を撃破してWBO1位の座を確定させた。
 こうしたなかWBOを含む3団体統一王者のオレクサンダー・ウシク(ウクライナ)が前王者のアンソニー・ジョシュア(イギリス)との再戦に臨むことが決定していたため、WBOは暫定王座の設置を決定。ジョイスとパーカーで決定戦が行われ、ジョイスが11回KO勝ちを収めたという経緯がある。

初10回戦は14戦目 再起戦で暫定王座挑戦のツァン

 ツァンはプロ転向に際して活動拠点をアメリカに定めた。17秒TKOで初陣を飾ったツァンはミゲール・コット(プエルトリコ)対ダニエル・ギール(オーストラリア)、コット対サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)、アンドレ・ウォード(アメリカ)対サリバン・バレラ(キューバ)といった注目ファイトの前座に出場して勝利を収めたが、初めて10回戦に臨んだのは14戦目だった。
 ツァンの知名度が上がったのは2021年2月、アルバレス対アブニ・イリディリム(トルコ)の前座で行ったジェリー・フォレスト(アメリカ)戦だろう。ツァンは序盤に3度のダウンを奪ったが、中盤からフォレストの猛反撃を受けて何度も窮地に陥り、引き分けに持ち込むのがやっとだった。知名度は上がったものの評価が上がることはなかった。その後、テオフィモ・ロペス(アメリカ)対ジョージ・カンボソス(オーストラリア)、アルバレス対ドミトリー・ビボル(キルギス/ロシア)の前座に起用されて2回TKO勝ち、1回KO勝ち。昨年8月、ウシク対ジョシュアⅡの前座でIBF挑戦者決定戦に臨んだが、フィリップ・フルゴビッチ(クロアチア)に競り負けた。これが最直近の試合だ。戦績は26戦24勝(19KO)1敗1分。

8対1でジョイス有利 5年ぶりの対サウスポーに不安も

 身長198センチ、体重約122キロ(直近の試合)のジョイスに対し、ツァンも身長198センチ、体重約125キロと体格は互角といえる。経験値と馬力に加えジョイスには地の利があり、それが8対1という一方的なオッズに現れているものと思われる。いつものようにジョイスがじわじわとプレッシャーをかけながら前進し、左ジャブから右に繋げるボクシングができれば勝利は時間の問題といえそうだ。
 ツァンはサウスポーの利点を生かしてリズミカルに右ジャブを突いて先手を取り、肩からスッと伸びる左ストレートで攻勢をかけたい。「ビッグバン(大爆発)」というニックネームを持っているツァンだが、強打というよりも巧打の印象が強い。見るからに重量感のあるジョイスのパンチと異なり、ツァンの左ストレートは軽いもののスピードがあり、相手にとっては避けにくいパンチといえる。プロでは5年ぶりのサウスポーとの対戦となるジョイスの反応が遅れるようなことがあると、番狂わせの可能性が出てくる。

<ヘビー級トップ戦線の現状>

WBA S
:オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)
:ダニエル・デュボア(イギリス)
WBC
:タイソン・フューリー(イギリス)
IBF
:オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)
WBO
:オレクサンダー・ウシク(ウクライナ)
暫定
:ジョー・ジョイス(イギリス)

 3本のベルトを持つオレクサンダー・ウシク(37=ウクライナ)とWBC王者のタイソン・フューリー(34=イギリス)が双璧といえる。両者の並走は2021年9月から始まり、一時は「2023年春に統一戦か」と報じられたが、話が進展しないまま現在に至っている。
いまも「12月にフューリー対ウシクの頂上決戦+デオンテイ・ワイルダー(37=アメリカ)対アンソニー・ジョシュア(33=イギリス)の元王者対決」という夢の構想が話題になってはいるが、実現性に関しては疑問符を付けざるを得ない。選手のピーク、試合の話題性が十分にあるうちに実現してほしいものだ。
 上記4人とは異なりWBA王者のダニエル・デュボア(25=イギリス)には時間が十分にあるが、昨年12月のV3戦では安全パイと見られたケビン・レリーナ(31=南アフリカ共和国)に3度のダウンを喫して打たれモロさをさらけ出してしまった。まずは信頼回復に努めなければなるまい。リスクの小さい相手を選んで豪快なKO勝ちを重ねるか、思い切ってウシクやフューリーに挑むか。
 WBO暫定王者のジョー・ジョイス(37=イギリス)は今回の初防衛戦でツァン・チレイ(39=中国)戦を楽々とクリアしてウシクやフューリーに対戦のアピールをしたいところだ。年齢的にも敗北が許されないのはツァンや、元WBC王者のワイルダー、ジョシュアにもいえる。
 WBC2位のアンディ・ルイス(33=アメリカ)はジョシュアとの再戦で3団体王座を失ってから2連勝を収めているが、なかなか次戦が決まらない。こちらも早めに勝負したいところだ。
 新興勢力としてはWBA8位、WBC11位、WBO7位のジャレド・アンダーソン(23=アメリカ)と、WBC16位に上がってきた東京五輪金のバホディル・ジャロロフ(28=ウズベキスタン)に注目したい。アンダーソンが14戦全KO勝ち、身長201センチのサウスポー、ジャロロフが12戦全KO勝ちとレコードも完璧だ。2~3年後、ふたりの時代がやってくるかもしれない。

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