WBC世界スーパー・フェザー級王座決定戦 レイ・バルガス対オシャキー・フォスター

  • 2023/02/24

3階級制覇狙うバルガス
フォスターは「冷や水」を浴びせられるか

 シャクール・スティーブンソン(アメリカ)が昨年9月の防衛戦を前に体重超過のため計量で失格、剥奪された王座をレイ・バルガス(32=メキシコ)とオシャキー・フォスター(29=アメリカ)が争う。スーパー・バンタム級時代にWBC王座を5度防衛し、昨年7月にはフェザー級のWBC王座を獲得したバルガスにとっては3階級制覇がかかった試合となる。一方、「Ice Water」というニックネームを持つスイッチヒッターのフォスターは経験値では劣るものの9連勝(4KO)と勢いがある。オッズはバルガス有利のまま15対8から12対7と試合が近づくにつれて接近し、ついには11対10まで縮まった。実力伯仲のカードだけに接戦が予想される。

フェザー級を2試合で通過 8連続判定勝ち中のバルガス

 バルガスは2009年の世界選手権に出場するなどアマチュアで活躍後、2010年4月にプロに転向した。3戦目から14連続KO勝ちを収めて注目を集め、2017年2月には相手国で行われたギャビン・マクドネル(イギリス)との決定戦を制して期待どおりWBC世界スーパー・バンタム級王座を獲得。その後、暫定王者の亀田和毅(協栄 ※当時)を退けるなど2年半に5度の防衛を記録した。前後してケガや故障に泣かされることになり、その後は2年以上も試合から遠ざかった。フェザー級で復帰し、昨年7月にはマーク・マグサヨ(フィリピン)を破ってWBC王座を獲得した。9回に攻撃に出た際に右を合わされてダウンを喫するなど快勝とはいかなかったが、36戦全勝(22KO)で2階級制覇を成し遂げた。
 身長、リーチとも179センチと恵まれた体格の持ち主で、リスクを抑えたアウトボクシングに定評がある。戴冠前(28戦全勝22KO)は80パーセント近いKO率を誇ったが、7度の世界戦を含む直近の8戦すべてが判定勝ちとなっており、強打者の印象は薄くなった。ただ、先のマグサヨ戦では相手の攻撃スタイルに合わせて打ち合う場面も多々あり、そのあたりに気の強さと意地が感じられたものだ。

強豪を連破して勢いを増しているフォスター

 フォスターは8歳でボクシングを始め、2012年9月にプロ転向を果たすまでに100戦以上をこなしたと伝えられる(勝敗数は不明)。19歳の誕生日直前にプロデビューし、9戦目と12戦目にライト級8回戦で判定負けを喫した。再起戦と次戦が4回戦だったのは、まだ線が細かったために大事をとったからかもしれない。
 2018年9月の試合からスーパー・フェザー級に体重を下げ、WBC9位のジョン・フェルナンデス(スペイン)に10回判定勝ちを収めた。これで世界15傑入りを果たしたフォスターは徐々にランクを上げ、2020年11月には世界挑戦経験者でWBC7位のミゲール・ローマン(メキシコ)と対戦。タフなファイターが相手だけに厳しい予想もあったが、初回に右ストレートでダウンを奪ったすえ9回に仕留めてみせた。逞しさを身に着けたフォスターは次戦で挑戦者決定戦に臨み、サウスポーのムハマドクジャ・ヤクボフ(タジキスタン)に大差の12回判定勝ちを収めた。これで2017年以降は9連勝で、通算戦績を21戦19勝(11KO)2敗に伸ばしている。

好材料の少ないバルガス 経験でカバーできるか

 オッズは11対10でわずかにバルガス有利と出ているが、2階級制覇王者にとってはこれまでと勝手の違う試合になりそうだ。理由として、フォスターが身長174センチ、リーチ183センチと大柄なスイッチヒッターである点が挙げられる。さらにフォスターが左構えで戦った場合、サウスポーとの世界戦は初となるのだ。スーパー・バンタム級から上げてきたバルガスと、ライト級から下げてきたフォスター(別表参照)の体力、馬力が勝敗に大きな影響を及ぼす可能性は十分に考えられる。しかもフォスターは自信を増しているうえにスピードがあり足もつかえる。むしろ前戦でダウンを喫しているバルガスにとって好材料は少ないといっていいかもしれない。
 まずは初回、フォスターがどちらの構えでスタートするのか、そしてバルガスがどんな対応を見せるのか注目したい。
 経験で勝るバルガスが3階級制覇を成し遂げるのか、それとも「Ice Water(氷水)」というニックネームを持つフォスターが冷や水を浴びせるのか。

<レイ・バルガス 2017年以降の試合 相手と結果&バルガスの体重>

2017年2月
ギャビン・マクドネル(英) 〇12回判定 54.4キロ
(WBC世界S・バンタム級王座獲得)
2017年8月
ロニー・リオス(米) 〇12回判定 防衛① 55.1キロ
2017年12月
オスカル・ネグレテ(コロンビア/米) 〇12回判定 防衛② 54.9キロ
2018年5月
アザト・ホバニシャン(アルメニア) 〇12回判定 防衛③ 54.4キロ
2019年2月
フランクリン・マンサニア(ベネズエラ) 〇12回判定 防衛④ 55.3キロ
2019年7月
亀田和毅(協栄) 〇12回判定 防衛⑤ 55.1キロ
2021年11月
レオナルド・バエス(メキシコ) 〇10回判定 無冠戦 56.7キロ
2022年7月
マーク・マグサヨ(比) 〇12回判定 56.9キロ
(WBC世界フェザー級王座獲得)
  • ※マクドネル戦はイギリス開催 他の7試合はアメリカ開催


<オシャキー・フォスター 2017年以降の試合 相手と結果&フォスターの体重>

2017年12月
アンドリュー・グッドリッチ(米) 〇1回TKO 62.1キロ
2018年1月
カイリン・アルフレド(米) 〇4回判定 61.0キロ
2018年4月
フランク・デ・アルバ(プエルトリコ/米) 〇8回判定 59.5キロ
2018年9月
ジョン・フェルナンデス(スペイン) 〇10回判定 58.7キロ
(WBCシルバー S・フェザー級王座獲得)
2019年2月
ファチョー・ファッシノ(ベニン) 〇10回判定 59.3キロ
2019年7月
ヘスス・ブラボー(ペルー) 〇8回KO 58.9キロ
(WBA中米Sフェザー級王座獲得)
2019年12月
アルベルト・メルカド(米/プエルトリコ) 〇10回判定 58.8キロ
2020年11月
ミゲール・ローマン(メキシコ) 〇9回KO 58.9キロ
2022年3月
ムハマドクジャ・ヤクボフ(タジキスタン) 〇12回判定 58.8キロ
(WBC世界Sフェザー級挑戦者決定戦)
  • ※ブラボー戦はコスタリカ、ヤクボフ戦はアラブ首長国連邦で開催。ほかの7試合はアメリカ開催


<スーパー・フェザー級トップ戦線の現状>

WBA
:エクトル・ルイス・ガルシア(ドミニカ共和国)
WBC
:空位 ※決定戦 レイ・バルガス対オシャキー・フォスター
IBF
:シャフカッツ・ラヒモフ(タジキスタン)
WBO
:エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)

 激動の階級といっていいだろう。WBA王座はロジャー・グティエレス(27=ベネズエラ) ⇒ エクトル・ルイス・ガルシア(31=ドミニカ共和国)、WBC王座はオスカル・バルデス(32=メキシコ) ⇒ シャクール・スティーブンソン(25=アメリカ) ⇒ 体重超過のため空位、IBF王座は尾川堅一(35=帝拳) ⇒ ジョー・コルディナ(31=イギリス) ⇒ シャフカッツ・ラヒモフ(28=タジキスタン)、そしてWBO王座はシャクール・スティーブンソン ⇒ 体重超過のため空位 ⇒ エマヌエル・ナバレッテ(28=メキシコ)と、この1年でベルト保持者が目まぐるしく変わっている。
 しかもWBA王者のガルシアは今年1月、ライト級王者のジャーボンテイ・デービス(アメリカ)に善戦したものの9回TKO負け。IBF王者のラヒモフとWBO王者のエマヌエル・ナバレッテは決定戦で揃って9回TKO勝ちを収めているが、ともに前半に痛烈なダウンを喫しており、評価を上げる内容とはいえない試合だった。では、ラヒモフに敗れたゼルファ・バレット(29=イギリス)、ナバレッテに敗れたリアム・ウィルソン(26=オーストラリア)が株を上げたかというとそうともいえない。いまのところスティーブンソンが抜けた穴を埋めることはできていない。
 今回のWBC王座決定戦、レイ・バルガス(32=メキシコ)対オシャキー・フォスター(29=アメリカ)は興味深いカードといえるが、どちらが勝ってもすぐに階級の主役というわけにはいかないだろう。まだまだ混戦状態は続きそうな気配だ。
 負傷のためにナバレッテ戦を辞退した元世界2階級制覇王者のオスカル・バルデス(32=メキシコ)、ラヒモフへの挑戦が決まった前IBF王者のコルディナ、元世界4階級制覇王者のレオ・サンタ・クルス(34=メキシコ)、元IBF王者の尾川堅一(35=帝拳)、前WBA王者のロジャー・グティエレス(27=ベネズエラ)らにもチャンスがありそうだ。



WBC米大陸ウェルター級王座決定戦 マリオ・バリオス対ジョバニ・サンティアゴ

連敗脱出をかけたサバイバル戦
オッズは5対1でバリオス有利

 2代前のWBA世界スーパー・ライト級王者、マリオ・バリオス(27=アメリカ)と、元世界ランカーのジョバニ・サンティアゴ(33=プエルトリコ)が、ともに連敗脱出をかけて拳を交える。
 バリオスは2019年9月にデビューから25連勝(16KO)で世界王座を獲得し、コロナ禍のなか13ヵ月後の初防衛戦は6回KOで飾った。しかし、2021年6月、下のクラスから上げてきたジャーボンテイ・デービス(アメリカ)に11回TKOで敗れ失冠。それを機にウェルター級に転向したが、元WBA、WBC王者のキース・サーマン(アメリカ)に12回判定負けを喫した。183センチの身長、180センチのリーチはウェルター級でも恵まれている方だが、全体的なボリュームではサーマンに及ばず、プレッシャーも効かなかった。これがウェルター級での2戦目となる。単に体重を増やすだけでなく、どれだけ動けるか、どれだけ新階級に馴染んだかが試されることになる。
 サンティアゴもスーパー・ライト級からの転向組だ。こちらも引き分けを挟んでデビューから14連勝(10KO)を収めて世界ランク入りを果たしたが、2021年2月に元世界4階級制覇王者のエイドリアン・ブローナー(アメリカ)に12回判定で敗れた。
3ヵ月後には売り出し中のハードパンチャー、ゲイリー・アントゥアン・ラッセル(アメリカ)と対戦したが、6回終了TKO負けを喫している。4回にサウスポーの右フックをカウンターで浴びてダウンを喫するなど完敗の内容で、ホープの引き立て役に甘んじた印象が強かった。
 ともに攻撃型だが、経験と体格に加えスピードやパンチのバリエーションなど個々の戦力でもバリオスが上を行く。体力のあるサンティアゴを甘く見ることは危険だが、5対1のオッズが後押ししているように総合力で勝るバリオスが圧倒的有利であることは間違いない。スピードと連打でサンティアゴを翻弄して中盤あたりでレフェリー・ストップに持ち込む可能性が高そうだ。

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